ハピネス訪問看護ステーションは精神科に特化した訪問看護ステーションです。特にクライシス・プランを積極的に活用した自立を促す支援に力を入れています。

クライシス・プランは、精神的な安定を維持し、不調や危機状態を乗り越えるための支援ツールとして注目されています。その中でも「安定した状態」の項目は、ご利用者自身の強みや特性を知り、支援に活かすために非常に重要な要素となります。今回の記事では、青色で示されている「安定した状態」の作成方法について、実践的なポイントを解説します。

◎「安定した状態」とは?

青色で示される「安定した状態」は、文字通り精神面や生活面で落ち着いている状態を指します。しかし「安定した状態」とは具体的にどのような状態を意味するのでしょうか?ここで重要となってくるのは「その人にとって安定しているとはどのような状況か」を明確にすることです。

たとえば「ストレスを感じない」という漠然とした表現では、支援者間や本人との間で解釈の違いが生まれる可能性があります。一方で、「毎日8時間眠れる」「食事を1日3食摂れている」など、具体的な行動や状況を言語化することで、誰が見ても分かりやすくなり、支援のズレを防ぐことが可能です。

◎「安定した状態」を記載する意義

「安定した状態」を明確に記載することには、次の3つの意義があります。

1. 自己理解を深める

私たちは、普段自分自身の「安定した状態」について深く考えることはあまりありません。しかし、クライシス・プランの作成を通じて「どんな時に安定しているか」を考えることは、自己理解を深めるきっかけとなります。たとえば「家族と週に1回30分話す時間を持つと心が穏やかになる」といった気付きが得られるかもしれません。

2. ストレングス(強み)の発見

安定した状態を記録する中で、本人や支援者が今まで気付いていなかった強みが見えてくることがあります。たとえば「朝に散歩をする」という記載から、その人が日常のルーティンを大切にする力を持っていることがわかります。このような強みは、精神的な不調や危機を乗り越える際の貴重な情報になります。

3. 支援の一貫性を保つ

クライシス・プランは、多くの場合、複数の支援者で共有されます。その際、記載内容が具体的であればあるほど、支援の方向性にズレが生じにくくなります。「8時間眠れる」という具体的な記載があれば、支援者全員が同じ基準で本人の状態を判断でき、効果的な支援が可能になります。

◎「安定した状態」を具体的に記載する方法

では、どのようにして「安定した状態」を具体的に記載すればよいのでしょうか?以下に、具体例を挙げながらポイントを解説します。

1. 行動に焦点を当てる

抽象的な表現ではなく、行動や状況を具体的に言葉にすることが重要です。たとえば、「気分が良い」を掘り下げて「毎朝6時に起きて朝食を摂ると気分が良い」というように、行動と結びつけて考えていくことで明確な記録が可能になります。

2. 量や時間で表現する

具体的な数値を用いると、誰が見てもわかりやすい記載になります。たとえば「ぐっすり眠れる」という記載では基準が曖昧ですが「8時間眠れる」とすることで、支援者間の認識のズレを防ぐことができます。

3. 環境要因を考慮する

「安定した状態」を記載する際には、周囲の環境要因を考慮することが大切です。たとえば「リラックスしている」を掘り下げると「静かな環境で1時間読書をすることでリラックスできる」というように、具体的な場所や状況を明らかにしていくことでより現実的な支援が可能になります。

※「安定した状態」の具体例

以下は、「安定した状態」の具体例です。

8時間眠れる、一日3食食べられている、人と笑顔で話せる、頭痛がない、体が軽い、近所の公園に散歩に行ける、趣味を楽しむ時間が確保できている、部屋の掃除ができている、洗濯物を畳むことができる、など

これらの記載は、本人が安定している状態を明確に表現するだけでなく、支援者がどのようにアプローチすべきかを具体的に示す指針となります。

◎「完璧」を目指さないこと

クライシス・プランの作成において、支援者はしばしば「完璧」を目指しますが、最も重要なのは、当事者にとってできる限り少ない負担でクライシス・プランを作成し活用することです。完璧を追求するあまり、より具体的な「安定した状態」の記載を求め、プラン作成のハードルを上げてしまうと、当事者がためらう可能性があります。作成を開始した当初は、曖昧で評価のしづらい表現であっても本人の言葉を大切に記載し、それを活用しながら少しずつ具体的な表現に加筆・修正を行っていくことが大切です。

不完全な内容であっても、実際に活用してその都度振り返りながらより良いプランにブラッシュアップしていきましょう。

◎まとめ

クライシス・プランにおける「安定した状態」の記載は、自己理解を深め、強みを発見し、支援の一貫性を保つための重要なステップといえます。「安定した状態」をより具体的に記載することで、支援者との認識のズレを防ぎ、効果的な支援が可能になります。

ハピネス訪問看護ステーションでは、引き続きクライシス・プランを積極的に活用し、ご利用者の自立を促す支援に努めていきたいと考えています。