神戸市を拠点とする精神科に特化したハピネス訪問看護ステーションでは、クライシス・プラン(CP-J)を積極的に活用し、利用者さんの自立を促す支援に力を入れています。
クライシス・プランは、利用者さんが精神的に不安定な状態になったときに、自分で適切な対処を取れるようにするためのツールです。しかし「訪問看護の時間内でどのように作成すればよいかわからない」という声をよく聞きます。そこで今回は、訪問看護でクライシス・プランを作成する際の4つのポイントをご紹介します。

① 一回の訪問で全ての項目を埋めようとしない
訪問看護の限られた時間内で、クライシス・プランの全項目を一度に完成させるのは難しいものです。むしろ、一度に埋めようとすると、利用者さんにとって大きな負担となることがあります。特に、過去の辛い出来事を振り返る必要がある項目では、慎重に進めることが重要です。
例えば「今日は目標を考えましょう」「今日は『青』の項目について話してみましょう」といった形で、毎回の訪問で少しずつ進めていくのが理想的です。小さなステップを積み重ねることで、利用者さんも無理なくプランの作成に取り組めます。
また、作成の過程自体を前向きな体験にすることも大切です。「どうすれば安心できるか」「何が自分を支えてくれるのか」といった話をすることで、利用者さんが自分の強みや対処法に気づく機会になります。
② 完璧を目指さない
看護師の中には「すべての可能性を網羅した完璧なプランを作らなければならない」と考えてしまう方も少なくありません。しかし、実際には、完璧なプランよりも、実行可能なプランが重要です。
クライシス・プランは、すべての項目を埋める必要はありませんし、細かく書きすぎる必要もありません。大切なのは「このプランなら実際に使える」と思える内容にすることです。最初はシンプルなものでも、実際に使いながら加筆・修正を行い、より効果的なプランに育てていくことができます。
特に、精神的な不調時には脳の機能が低下し、たくさんの情報を処理するのが難しくなります。そのため、クライシス・プランに情報を詰め込みすぎない工夫が必要です。例えば、「赤の状態(要注意状態)」のときに読む部分は短く簡潔にし、すぐに実行できる対処法を記載するとよいでしょう。
また、実際に使いながら本当に役立つ項目を見極めることも重要です。はじめから完璧を目指すのではなく「試行錯誤しながら育てていく」という意識を持つと、より良いプランになります。
③ 一方的に作成せず、協働的に作成する
クライシス・プランは、利用者さんと支援者が協力して作成することが大切です。支援者が一方的に作るのではなく、利用者さんと話し合いながら作成することで、より現実的で実行しやすいプランになります。
支援者は、利用者さんが気づきにくいリスクや対処法を提案することができます。一方で、利用者さん自身も、「自分にとって本当に効果的な対処法」や「支援者が気づかない視点」を持っていることがあります。お互いの知識や経験を活かしながら作成することで、より効果的なプランにすることが可能です。
また、クライシス・プランを一緒に作成するプロセスは、支援者と利用者さんの信頼関係を深める機会にもなります。「このプランは自分のためのものだ」と実感できると、利用者さん自身がプランに対して積極的になり、実行につながりやすくなります。
④ 本人の言葉を大切にする
クライシス・プランを作成する際には、利用者さんの言葉を大切にすることが重要です。利用者さんが自分の状態や気持ちを自分の言葉で表現できるよう支援することで、より実感の湧くプランになります。
例えば、「不安になったときはどうしたら落ち着く?」と尋ねたときに、「深呼吸をする」「好きな音楽を聴く」といった答えが出た場合、それをそのままクライシス・プランに記載します。「〇〇さんが『深呼吸をすると落ち着く』と言っていたので、それを実行してみましょう」と伝えることで、利用者さんも納得感を持って対処法を実践できます。
また、本人の言葉を使うことで、支援者も利用者さんの考え方や感じ方を深く理解できます。支援者の視点だけでなく、利用者さんの視点を取り入れたプランにすることが、実際に使えるプランにつながるのです。

◎まとめ
クライシス・プランの作成は、利用者さんの自立を支える大切なプロセスです。しかし、一度に完璧なプランを作るのではなく、時間をかけて、協働的に、利用者さんの言葉を大切にしながら作成することがポイントです。
1. 一度に全てを埋めようとせず、少しずつ進める
2. 完璧を目指さず、実行可能なプランを作る
3. 一方的ではなく、協働して作成する
4. 利用者さんの言葉を大切にする
これらを意識することで、実際に役立つクライシス・プランを作成できるようになります。ハピネス訪問看護ステーションでは、これからも利用者さんの自立を支援するために、クライシス・プランの活用を積極的に進めていきます。
クライシス・プランの作成についてご質問やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
