ハピネス訪問看護ステーションは、神戸市を拠点とする精神科に特化した訪問看護ステーションです。最近、当ステーションでもひきこもりの方に対する支援を行ったり、そのご家族からのご相談が増えてきています。
▶︎「ひきこもり」の支援対象とは?
ひきこもり支援における対象者とは、厚生労働省作成の「ひきこもり支援ハンドブック〜寄り添うための羅針盤〜」によると、社会的に孤立し、孤独を感じている状態にある人や、様々な生活上の困難を抱え、家族を含む他者との交流が限定的(希薄)な状態であり、かつ、支援を必要とする本人及びその家族となります。
また、その状態にある期間は問いません。
現在、ひきこもりのある世帯は全国に約26万世帯と推計されており、長期化や「8050問題(80代の親が50代の子どもの生活を支える)」など、新たな社会課題にもつながっています。

▶︎ひきこもり=精神疾患?
「ひきこもり」と聞くと、精神疾患を抱えている人が全員そうであるというイメージを持たれることがありますが、それは大きな誤解です。ひきこもりとは、就学や就労といった社会参加が長期にわたって困難な状態にあることを指し、必ずしも精神疾患があるとは限りません。家庭や学校、職場などの人間関係でつまずき、自信を失ったことがきっかけになることも多く、背景には多様な要因があります。
一方で、精神疾患を抱える方の中には、その症状の影響により、結果的にひきこもり状態になるケースが多く見られます。たとえば、統合失調症では、被害妄想や幻聴といった症状により他者との接触を避けるようになることがあります。うつ病では、気分の落ち込みや意欲の低下によって外出が難しくなり、生活の範囲が著しく狭まっていくことがあります。また、社交不安障害やパーソナリティ障害、発達障害の二次障害として、対人関係への強い不安や自己否定感から外との関わりを避けるようになる場合もあります。
このように、精神疾患とひきこもりの関係は一方向ではなく、相互に影響しあうこともあります。たとえば、ひきこもりが長期化することで孤立感が深まり、二次的にうつ状態を招いたり、生活リズムの乱れが精神的な不調を悪化させたりすることもあるのです。
私たち支援者が大切にすべきなのは「ひきこもり=精神疾患」という一面的な見方をせず、その人がなぜ社会との接点を失ったのか、その背景に丁寧に目を向けることです。また、精神疾患を抱えている方がひきこもり状態にある場合には、病状への適切な医療的支援と同時に、安心できる社会的なつながりを回復する支援も不可欠です。
ひきこもりの背景は人それぞれであり、精神疾患の有無だけで判断することはできません。一人ひとりの歩みに寄り添いながら、支援のあり方を考えていくことが求められています。

▶︎ひきこもり支援は、まず「家族支援」から
ひきこもっているご本人が自ら相談窓口にアクセスするケースは少なく、最初の支援はご家族からの相談がきっかけになることがほとんどです。精神科訪問看護は、精神科に通院中または精神科の訪問診療を利用されており、精神疾患の診断を受けている方が利用することができます。私たちは精神科の主治医の指示のもとで支援を行っていきます。
精神科訪問看護は、「社会とのつながりを取り戻すこと」と「本人が自分らしく生きられること」の両方を大切にしながら関わります。
はじめは、ご家族と面談を重ねながら、以下のような支援を行います。
• ご家族の不安や悩みを整理し、支援方針を一緒に考える
• 本人の状況や家庭内の関係性を把握し、環境を整える
• 必要に応じて、リスクマネジメント(自傷や家族への攻撃性など)を行う
▶︎「会えない」時間も支援の一部
訪問看護師がご本人にすぐには会えないことも多くあります。精神科訪問看護の対象はご家族も含まれるため、本人に会えない間はご家族の支援が中心となります。それでも、ご本人に関心を持っていただき「いつか会ってみたい」と思ってもらえるように、以下のようなアプローチを続けます。
• ご家族や他の支援者から精神科訪問看護の利用を促してもらう
• 本人に会えなくても、定期的に家族に対する訪問を続け、存在を伝え続ける
• ご本人の気持ちが動くまで、焦らず関係を築いていく
こうした「間接的な支援」の積み重ねが、ご本人に「このままではいけないかもしれない」「少し話してみようかな」という気持ちを促進します。

▶︎小さな一歩から、「自分らしい社会参加」へ
ご本人とお会いすることができたら、まずは「安心できる存在」として信頼関係を作りながら、日常の困りごとや気持ちに寄り添っていきます。
さらに、支援チームや当事者の仲間とも連携しながら、徐々に社会とのつながりをサポートします。
最終的に、ご本人が「自分なりの役割」を見つけ、社会と自然につながれるようになったときには、訪問回数を少しずつ減らしながら見守り、後方支援を継続します。
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次回のコラムでは、今回ご紹介した支援の流れをもとに、実際の精神科訪問看護の中でどのような「ひきこもり支援」が行われているか、さらに具体的にご紹介します。
また、2025年4月18日(金)20:00〜、明石市を拠点にひきこもり支援を行う団体「 I.C. 」様との共催で
『精神科訪問看護のひきこもり支援』をテーマにセミナーを開催いたします。
詳細は下記のポスター画像をご参照ください。
ぜひ、お気軽にご参加ください!
